開出今移民物語  明日への歩み

 

百年にわたる苦難の移民史を顧みると、明治中葉から大正初期の「カナダへの順応期」、昭和年代の「カナダへの同化期」を経て戦後の「カナダ人になり切る時期」へと、飛躍脱皮して行く過程がはっきり見えて、本当にその未来には明るい希望と感じるのである。

 選挙権が日系人に与えられたのが1949年(昭和24年)が、これは移民百年を通じての一大快挙であった。これを転機として職業選択も、白人との結婚も人種偏見のない自由意思でスムーズに行われるようになった。これは自らの努力の結晶がもたらした当然の成果だと思う。

 開出今出身移住者にしても、華やかな明治・大正年間の出稼期に比較して、数はたしかに少なくなっているが、完全に故郷開出今から脱却し、充実したカナダ人としての生に浸り切っている。

 戦後の世界的現象として「人種融合」が普遍的になって来ており、差別のない世の中への方向に進んでいる。そして五十も六十も、あるいはもっと多くの異なった人種の拑堝であるカナダの土地で、狭い島国根性をかなぐり捨て、新しい人間像が築かれて行く日系人。その中で、開出今出身者もその一角を担って、輝かしい未来を作り上げていく過程を観察すると、その根性に快哉を叫ばざるを得ないものである。

    

     東風吹かば 匂い起こせよ 梅の花

     主なしとて 春な忘れそ

 

 都から遠く九州の涯に流されても、主土と故郷を忘れずに切々と詠んだ菅原道真公の心情は、道真公を祭主とするお宮さんの氏子だった開出今出身者には、今もなお脈々として現地で生き続けているように思える。

 梅花の匂いはとても通わぬ遠い土地ながら、カナダは(メープル)の国である。その楓のおおらかな懐に包まれて、梅花の感傷をそのまま開花したというべきであろう。

 秋深い広大な山野に、燃える如くくれないに染まった楓の林の続く景観は悠久なカナダの心そのままを表している

 楓はまたカナダ国旗のシンボルでもある。大陸的な匂いのするこの楓の持つ情熱の雰囲気の中で、梅花の匂いを忘れずに前進して行く開出今出身者のたくましい将来が、さらに開かれて行くことを心から祈念して筆をおくものである。