古い開出今の話   郷土芸能

第六章 近世以降の開出今の郷土芸能

母衣踊、祭太鼓の打ち方、力石、八杯豆腐 について紹介します。

(一) 母衣踊り

 

現在殆んど忘れられているが、当町には豊年踊としての「大太鼓跳・母衣踊・恋仲踊」と言う郷土芸能があった。

お盆の頃になると、昔から諸所方々で盆踊りが催されるのが通例になっており、豊年を祈り老若男女が真夏の蒸し暑い夜、長襦袢や浴衣着で一晩中踊り狂って楽しんだのである。それが娯楽の無かった時代の随一の楽しみであったようである。

そんな頃に、我が開出今には独自の踊りとしての母衣踊・恋仲踊が存在していたらしい。

発生したのがいつ頃か不詳ではあるが、この二つの踊りはペアになっており、母衣踊が主で一種の太鼓踊である。一匹の長さの晒木綿を腹に巻きつけ、その先を肩に取って襟にかけ、さらにそれを背中で、はでな蝶結びにし、胸に太鼓をしっかりとつけることになっている。それに八尺余りの長

さの竹を細く割り、紅白に染めた飾り綿や、金銀の短冊紙片をこれに巻きつけたのを十数本作り、扇形に広げて台に差し、これを背に負って踊り、調子に合わせてトンボを切る勇壮な踊だった。

盆踊大会が段々と進んで盛り上がり、踊子の興奮も最高頂に達する頃中入りで一息ついたあと、笛太鼓の囃子方数人と音頭取りを交えての母衣踊が六、七人の踊子によって始められるのである。そうすると江州音頭踊を少し変形したような恋仲踊を、沢山な婦人連がその周囲で母衣踊をかこむように踊り出す、華やかで賑やかなものであった。

      ・・中略・・

長い間受け継がれていた伝統あるこの踊りは戦争の余波を受けたのか昭和十一年の夏を最後にして姿を消しており、本当に惜しまれるところである。

      ・・中略・・

この時以来当町の盆踊りに母衣踊は見なれない。

最近国内各地では「ふるさと運動」が盛んになり、古典芸能も復活が叫ばれて、保存会を結成して後世への伝承が計られている。

小泉町に現存している母衣踊と当町の母衣踊と較べると可成り異なっているといわれる。郷土芸能に殆んど恵まれない当町だから、野趣あふれた独特の味のある母衣踊が、何時の日か町民の前に戻ってきて楽しませてくれるのを、待つ人も少なくはないと信じている。

(二) 祭り太鼓の打ち方

 

綺麗な一張羅に着飾った多くの人々が、賑やかな雰囲気に包まれながら、みこし渡御を見守るのどかなお祭り風景は、ふるさとの味として古い昔から楽しい思いがこめられているものである。

菅原神社春秋のお祭りには、白い長いのぼりがはためく中で、いい音色の太鼓が朝早くからドデン・ドデンと景色よく朗らかに鳴り響き、祭礼を盛り立てたものだが、最近ではその太鼓を打つ人も殆んど無くなりいささか淋しい感じがする。

太鼓の打ち方は、他所の神社とは異なった独特の打ち方が菅原神社にはある。その正調を記憶している人も今では少なくなっているので、忘れられないうちに知っている人の実演を願い、それを後世に伝えいきたいと「太鼓の打ち方」講習会が菅原神社境内で行われた。

昭和58年8月、開出今町青少年育成協議会の手で催されたのである。同好の志多数参集の上、鐘のリズムに合わせて正調太鼓の打ち方の復古研究が熱心に行われた。そしてテープにも録音され、その保存が計られことになったので、祭礼の日には再びあの懐かしい太鼓の響きが聞こえてくるのを待ちたいものである。

 

デン・ドデン・ドデン・デン

ドデン・ドーデン・ドードデン

デン・ドードデン・デン・ドデン

ドーデン・ドデン・ドデン・デン

     (あとの下り)

デン・ドデン・ドデン・デン

     ドデン・ドデン・デン

(三) 力石

 

菅原神社境内の一角に「力石」と称せられる珍しい形の石が三個置かれている。

明治から昭和初期頃までの、若衆連中が使用した石なのである。

昼間一生懸命働いて、夜になると一日中の緊張をほぐそうと、若い人皆が寄り集まってくる。だが娯楽の少なかったその頃のことだから、どうしても力くらべのような遊び方が多かったのである。

持ちにくい石だが、手に抱え肩にかついで、お互いの力を競い合った開出今若衆連中の遺物と言っていいものである。

その三個の石の重さは次のようである。

二十貫石 ( 90kg)

      二十八貫石(135kg)

      三十二貫石(150kg)


(四) 八杯豆腐

 

私たちの開出今には、葬式の出立ちの際に出る食べ物として「八杯豆腐」と言う他所には余りない特異な食べ物がある。

いつ頃からか、またなぜ「八杯」と言うのか、筆者寡聞にして不詳だが、非常に美味で、葬式としては最高に合った食べ物である。

八杯豆腐の焚き番は、隣組がその担当になっている。水を満たした釜に出し昆布を敷き、焚きつけて出しをとり、そして醤油をたっぷり入れ、砂糖を沢山と味の素で味をつけ、ぐつぐつと長い時間をかけて煮る。それから一丁の豆腐を二つ位の大き目に切って釜に入れると、豆腐は色良くおいしそうに煮上がる。それを椀に盛り、タップリ辛子を塗って会葬者に出す。

ご馳走の少なかった時代にも、現在でも「八杯豆腐」は最良の出立ちになる開出今の味である。